妊婦健診の尿検査って何のため?蛋白・糖など尿検査でわかること
2016/04/17
妊婦健診で必ず行う尿検査。検査結果にけっこうドキドキする人も多いでしょう。
でも、なんで毎回毎回しなければいけないの、疑問ではありませんか?+の判定だと何がいけないの?
実は、尿は体の健康状態を映す鏡です。尿検査の目的を知ることで、妊婦生活で注意したいことが見えてくるでしょう。
このページの目次
尿検査の目的は?
妊婦検診だけではなく、一般の健康診断でも行われる尿検査。その目的は何でしょう。
体に必要な様々な成分は、血液によって体中に運ばれます。そして、不要なものが血液に取り込まれ腎臓に運ばれます。
尿は、その血液に含まれる老廃物が腎臓でろ過されたものです。
そのため、健康な場合は体に必要なくなった物のみが尿と共に排出されます。
何か体に異常が発生している場合には、本来尿に含まれるはずのないものが混じっていたり、排出されるべきものが入っていなかったり、ということが起こります。
そうしたことから、尿を調べることで、まずは腎臓の機能の状態、そして、体全体の健康状態を把握することができるのです。
具体的には何が分かるのでしょう。
尿から分かる具体的なこと
尿検査をすることで分かることは何でしょう。
尿検査で調べられる主なことは、以下のようなものです。
尿検査の検査項目
検査項目 | 調べること | 疑われる病気 |
尿比重 | 尿に含まれる成分の比率 | 高値ー糖尿病、脱水など 低値ー腎不全など |
尿pH | 尿のpH | 正常は弱酸性 アルカリ尿ー尿路感染症など 酸性尿ー糖尿病、腎炎など |
尿蛋白 | 尿に含まれる蛋白の量 | 腎炎、妊娠高血圧症候群など |
尿糖 | 尿に含まれるブドウ糖の量 | 糖尿病、腎疾患など |
潜血 | 尿に含まれるヘモグロビンの有無 | 腎炎、膀胱炎など |
白血球 | 尿に含まれる白血球の量 | 膀胱炎、尿路結石など |
ケトン体 | 尿に含まれるケトン体の有無 | 糖尿病、妊娠悪阻など |
亜硝酸塩 | 尿に含まれる亜硝酸塩の有無 | 膀胱炎など |
ビリルビン、ウロビリノーゲン | 尿に含まれるビリルビン、ウロビリノーゲンの有無 | 肝疾患、胆石など |
これらはすべて、試験紙法と呼ばれる試験紙に尿を含ませて調べるという簡単な方法で行われます。
これらの中で、一般的な健康診断の項目は、「尿蛋白、尿糖、潜血」です。
そして、妊娠中はすべての妊婦検診で「尿蛋白、尿糖」を必ず調べます。
妊婦検診での尿検査の目的
腎臓は、もともと症状の表れにくい臓器といわれます。
妊娠をすると、赤ちゃんへ血液が必要となるため、母体の血液量が増えます。
そのため、腎臓への負担は重くなり、腎機能の低下を招きやすくなります。
くわえて、症状の表れにくい臓器のため、妊娠の早い段階から、尿検査で腎臓が正常に働いているかをチェックするのです。
妊婦検診での尿検査は、腎臓の不調を早期発見するために、重要なことなのです。
ではなぜ、尿蛋白と尿糖を毎回必ず調べるのでしょう。検査結果をその都度母子手帳に記入もしていきます。
調べる理由を、尿蛋白、尿糖それぞれで詳しく見ていきます。
「妊娠高血圧症候群」の症状は高血圧と蛋白尿
妊婦検診で尿蛋白について調べる最も大きな理由は、妊娠高血圧症候群の早期発見です。
妊娠高血圧症候群とは?
- 妊娠20週目以降から産後12週目までの間に、高血圧、または高血圧と蛋白尿のふたつが見られた場合に診断される。
- それ以前から高血圧のある場合は「高血圧合併妊娠」、蛋白尿などがある場合は「腎疾患合併妊娠」といい、妊娠高血圧症候群に移行しやすいとされる。
- 約20人に1人に起こるとされ、早期に発症するほど重症化しやすい。
- 母子ともに危険な状態に陥りやすい。
- 母体・・・けいれん発作、脳出血、HELLP症候群(赤血球崩壊や血小板減少などが起き多臓器不全へつながる)、常位胎盤早期剥離(出産前に胎盤がはがれ母子ともに死亡率が高い)
- 胎児・・・発育不全、低出生体重児、子宮内胎児死亡
- ぎりぎりまで自覚症状が表れにくい。
妊娠高血圧症候群の原因は、いまだはっきりと解明されていませんが、胎盤がうまく作られなかったことがひとつの要因ではないかと考えられています。
そのため、母体と赤ちゃんの間での栄養や酸素の受け渡しがスムーズにいかず、結果全身の血管に傷みが生じ、母体にも赤ちゃんにも様々な悪影響が表れるのではないかといわれます。
高血圧と蛋白尿は、その代表的なものということです。
妊婦検診の尿検査で分かる蛋白尿が、妊娠高血圧症候群発見のひとつのカギとなるため、重要なのです。
赤ちゃんの成長に悪影響「妊娠糖尿病」
妊婦の約12%がかかるといわれる、妊娠糖尿病。この早期発見で重要なのが、尿糖の検査です。
妊娠糖尿病とは?
- 妊娠中に初めて発見された血糖値高めの状態(糖代謝異常)。
- 妊娠前からの糖尿病、完全に糖尿病である状態(糖尿病合併妊娠)とは区別される(こちらの方がより重症)。
- 胎児も高血糖になりやすく、流産、奇形、早産、巨大児、子宮内胎児死亡などを起こしやすい。
- 母体も妊娠高血圧症候群や腎臓疾患などになりやすい。
- 妊娠糖尿病となった場合、出産後も含め糖尿病へ移行する率が高い。
母体と胎児は、胎盤を通して血液のやりとりをしています。そのため、血糖値の高い血液はそのまま赤ちゃんへも流れてしまいます。
それは、妊娠初期の場合は赤ちゃんの細胞分裂に影響を与え、奇形を発生させやすくしてしまいます。
奇形は、糖尿病とわからないまま妊娠し、その後治療を開始した場合の発生率は約9%とされます。
妊娠前から治療をしていた場合の発生率は2.1%で、出来るだけ早い段階から血糖値を把握して管理することは、とても重要だということが分かります。
こうしたことから、妊娠初期に血糖値を計ることが日本産婦人科学会から推奨されています。
また、中期以降は血糖値が上がりやすくなることが分かっているため、妊娠中期の血糖値検査も同様です。
妊娠周数の進んだ後の高血糖は、早産や巨大児などに結びつきます。
妊娠糖尿病は、将来的に糖尿病へ移行する確率が高いことが分かっています。
妊娠糖尿病ではなかった人と比べて、7.4倍多いという研究結果がアメリカで出されています。
糖尿病発見の第一歩は、尿糖の検査です。そのため、妊娠中は毎回の検診で尿糖を調べるのです。
陽性判定なら即病気?
尿蛋白、尿糖の検査とも、+-で陽性か陰性かを示されます。
母子手帳には、「-、+、++」のいずれかに〇印をつけられ、「-」は異常なし、「++」が最も重いということになります。
妊婦検診のたびに検査をし、1度でも+判定となったらその時点で病気なのでしょうか?
尿蛋白、尿糖のどちらでも、1回だけの陽性判定なら問題はありません。妊娠中は陽性になりやすいのです。
妊娠中は血液量が増えて腎臓に負担がかかりやすいので、陽性判定になりやすいものです。
妊娠中期以降は、赤ちゃんが大きくなるのに伴ってさらに血液量が増すため、特に陽性反応が表れやすくなります。
また、妊娠中は胎盤からインスリンを分解するホルモンが出るため血糖値が不安定になりやすくなります。
そのため、特に胎盤の完成した中期以降は血糖値が上がりやすく、尿に糖が出やすくなります。
そのため、医師にも「様子を見ましょう」といわれることがほとんどでしょう。
以下のようなときにも陽性になります。
尿蛋白、尿糖検査で陽性になりやすい要因
尿蛋白・・・おりものが多い、過食、睡眠不足、便秘など
尿糖・・・・検査前に食事、腎性糖尿(もともと体質的に糖が尿に出やすい)
しかし、陽性反応が続いたり「+」から「++」になっているような場合は、原因を調べるためにさらなる検査を受けることになるでしょう。
尿蛋白の場合は、血圧の状態を見たり、蓄尿をして1日にどのくらいの蛋白が出ているのかを調べるといった検査を行います。
尿糖の場合は、血糖値を調べます。
妊娠中の尿に表れるその他の症状
妊娠中は、蛋白と糖以外にも尿に表れる病気があります。
以下のようなものです。
妊娠中に起きやすい尿から分かる病気
- ケトン体・・・・・重症妊娠悪阻
- 潜血、白血球、亜硝酸塩・・・・膀胱炎
それぞれを詳しく見てみましょう。
尿にケトン体は「重症妊娠悪阻」
重症妊娠悪阻とは、症状の重いつわりのことです。
ケトン体は、脂肪をエネルギーに変えるときに作られるものです。
重症妊娠悪阻の場合、激しい嘔吐などで栄養不足になり、体のエネルギーになるブドウ糖が不足します。そのため体は脂肪を分解してエネルギーに変えるよう働きます。
その際、ケトン体が生成されるのです。
重症妊娠悪阻は、尿中に含まれるケトン体の量が診断基準のひとつです。
尿にケトン体が含まれるということは、かなり重いつわり症状であると考えられ、体が飢餓状態に陥っていることの表れになるのです。
つわりの症状が重い場合は、遠慮せずに医師に話しましょう。
尿を調べればすぐに判断でき、適切な治療へ結びつけることができます。
妊婦に多い「膀胱炎」も即診断
膀胱炎に悩まされる妊婦は多く、5人に1人がかかるといわれます。
尿は膀胱に貯めれた後排出されるため、尿を調べればすぐに診断が付きます。
膀胱炎は、細菌感染による膀胱壁の炎症です。
炎症のために出血があると尿に血が混じることになり、抗菌のために白血球が働くため白血球も混じります。
亜硝酸塩とは、硝酸塩が細菌によって変化したもので、通常は尿に含まれるものではありません。
硝酸塩は食物から体内に入り、尿で排出されるものです。尿に細菌がいると亜硝酸塩に変化します。
そのため、細菌の有無の目安となるのです。
実際にどのような細菌に感染しているのかは、尿沈渣という遠心分離機や顕微鏡を使った検査で判明されます。
また、一つの項目で当てはまったとしてもすぐ膀胱炎とは限りません。
さまざまな項目を総合して判断し、診断されます。
膀胱炎は妊婦によく見られるため、頻尿や痛みなどの症状があれば医師に伝えましょう。
尿からすぐに診断することができます。