妊娠初期の耳の違和感「耳管開放症」の原因と3つの対策
2016/03/30
妊娠をすると、体は妊娠に適した状態へとどんどん変化していきます。中には、トラブルとなって表れるものも。
耳の違和感もそのひとつです。耳にトラブルがあるというのは、想像以上に不快なものです。そのうえ、よくあることなのにあまり知られていない。
医師の中にも、しっかり浸透していない実情があります。そんな、妊娠に伴う耳の違和感について、原因や対策をまとめました。
このページの目次
その耳の違和感、「耳管開放症」かも
妊娠によって起きる耳の違和感。それは、耳に幕が張ったようになる、自分の声や息が頭の中で響く、といったものでしょう。
そうした症状でまず考えられるのは、「耳管開放症」です。
妊婦の6人に1人が発症するといわれ、実はとてもポピュラーなものなのです。
まずは、「耳管開放症」とはどのようなものなのかを見ていきましょう。
「耳管開放症」とは
耳管とは、鼻の奥から中耳に至る部分にある管です。
空気中の気圧と中耳内の圧を、調整する役割を持っています。
あくびや物を飲み込む時には開きますが、普段は閉じているのが正常な状態です。
それが、何らかの理由で開いたままになってしまうのが「耳管開放症」です。
一度なるとそのままずっと治らない、という人もいれば、すぐに治まったり何度も繰り返したり、という人もいます。
片耳だけの場合も、両耳に起こる場合もあります。主な症状は次の通りです。
「耳管開放症」の主な症状
- 耳がつまったり幕が張ったりした感覚があり、聞こえづらい
- 自分の声が頭の中で大きく響く
- 自分の呼吸の音が頭の中で響く
- めまいやふらつきがある
命にかかわるような病ではありませんが、大変に不快なものです。
原因は血行不良?
「耳管開放症」は、以下のようなことがあると発症しやすいといわれます。
「耳管開放症」の主な要因
- 急激な体重減少
- 睡眠障害
- 極度の疲労
- 脱水
- 妊娠
最も多く見られるのが、「急激な体重減少」です。耳管の開閉は、周辺にある脂肪とそのほかの組織とが連携して行います。
体重減少で痩せて脂肪が減ると、連携がうまくいかなくなり、耳管が閉まりにくくなるのです。
人間は、体重の約70%が水分といわれ、水分の不足が起こると体の機能がスムーズに働かなくなり不調となって表れます。
脱水症状のある時にも「耳管開放症」と似た症状が表れることがあり、脱水も発症要因のひとつと考えられています。
「耳管開放症」になりやすい要件は分かっていますが、根本的な原因は解明されていません。
有力なのは、耳管の周辺の血流不足という考えです。
「耳管開放症」の人には、顔色が悪く手足が冷えている場合が多くあります。
また、睡眠障害や極度の疲労は、そのことによって血液の働きをコントロールしている自律神経がうまく作用していないためと考えられます。
ストレスとの関係も指摘されていて、これも自律神経の作用を阻害するもののため、血行不良を招きます。
妊娠と「耳管開放症」の関係
妊婦の6人に1人がかかるといわれる「耳管開放症」。
なぜ、妊娠するとなりやすいのでしょう。
ホルモンのバランスが影響
妊娠するとかかりやすくなる理由。
それは、ホルモンのバランスの変化が影響しているといわれます。
妊娠をすると、胎児の成長を支えるため子宮の状態を整えたり、乳房を発達させたり、という作用を、様々なホルモンが複雑に連携して行っていきます。
妊娠する前と比べ、ホルモンの分泌量やバランスは大きく変わります。
そうした重要な働きの副産物として、体の様々な不調も表れてしまいます。
「耳管開放症」もそのひとつと考えられています。
ホルモン状態の変化が体の不調として表れる理由は、自律神経がその悪影響を受けてしまうからだと考えられています。
ホルモンの分泌、自律神経とも、脳の視床下部でコントロールされてるためです。
どちらか一方に不調が表れると、もう一方も影響されてしまうのです。
「耳管開放症」の原因は血行不良ではないかといわれていますが、妊娠によるホルモンバランスの変化が自律神経に影響を与え、血行を阻害していると考えられるのです。
つわりによる体重減少も
妊娠による「耳管開放症」の原因として、もうひとつ挙げられるのは、つわりによる急激な体重減少です。
上に述べたとおり、急激な体重の減少は妊娠に関わらず「耳管開放症」の最も多い理由です。
特にもともと痩せ型の人が、5kgほど急激に痩せた場合なりやすくなる傾向にあります。
つわりには様々な症状がありますが、全く食べられない、食べても吐いてしまう、といった、体重の減る要因になるものが主です。
つわりで急に5kg痩せたということはよくあり、そうなると「耳管開放症」になりやすくなります。
耳の違和感と共に体重の減少がないか、確認してみるとよいでしょう。
この不快感いつ治る?
「耳管開放症」の症状は、とても不快なものです。いつまで続くのでしょう。
「耳管開放症」は、妊娠中期ごろに発症することが多い傾向にあります。
大きくなる赤ちゃんのために貧血になりやすくなるなど、血液や血流に関するトラブルはあり、そうしたことが理由である可能性はあるでしょう。
ホルモンのバランスが原因であることを考えると、妊娠初期に発症することは大いにあり得ます。
妊娠2か月の頃から耳の不快感があった、という人もいます。
ホルモンのバランスによるものと考えられているため、一般的には、出産をすれば自然と治ります。
遅くとも、ホルモンが妊娠前の状態に戻る産後半年ほどまでには、治まるでしょう。
しかし、中には、出産後何年も悩まされた、という人もいます。
上に挙げたとおり、「耳管開放症」は、睡眠不足や疲労も発症の要因とされています。
また、ストレスも要因のひとつです。
産後は、夜中の授乳などで睡眠不足になりがちです。
生活の流れも大きく変わり、疲れやすくもなり、ストレスがたまっても不思議ではありません。
こうしたことが、症状の改善を遅らせる可能性は十分考えられます。
「耳管開放症」の診断と治療について
「耳管開放症」については、医師の間でもまだまだ知られていない現状があり、対応できる医師も少ないといわれます。
また、明確な治療法も確立されていません。
困難な診断
「耳管開放症」は、症状が持続しないことが多く、受診をした時には症状がないことがあります。
また、症状の表現が主観的になるため、判断しにくいものでもあります。そのことが、診断を難しくしています。
「耳管開放症」の主な診断項目
- 体重の減少があるか
- 自分の声や呼吸が響いて聴こえるか
- 頭を下げると症状が治まるか
「耳管開放症」の大きな特徴は、おじぎをするように頭を下げた状態にすると一時的治る、ということです。
頭を下げることで、血流が回復されるためと考えられています。
そのため、この事が診断の決定打になります。
また、鼓膜の状態を検査し、呼吸のリズムに合わせて鼓膜が動いているかどうかを確認します。
自分の呼吸音が頭に響くのは、この事があるためで、これも診断の大きな目安となります。
「耳管狭窄症」と症状が類似
「耳管開放症」とほとんど同じ症状が表れるものに、「耳管狭窄症」があります。
「耳管狭窄症」は文字通り、耳管の開閉部が狭まった状態になるものです。
「耳管狭窄症」の症状
- 耳のつまったような幕が張ったような感じ
- 自分の声や呼吸の音が頭の中に響く
- 中耳炎、難聴の症状がある
原因となるものが違い、そのほとんどは風邪をきっかけにした上気道炎であるといわれます。
症状の表れ方がほとんど同じなため、間違って診断されることもあり、注意が必要です。
「耳管開放症」の治療とは
上で述べたとおり、治療法も確立されていないのが実情です。
多く行われているのは、「加味帰脾湯」という漢方薬による治療です。
「加味帰脾湯」は、通常は疲労や貧血、不眠、精神不安などの症状に対して用いられているものです。
患者の7割に効果が見られた、というデータもあります。
そのほか、血流を良くする薬の投薬も行われます。
睡眠不足や疲労、ストレスから発症する場合が多いことから、軽症の場合は生活改善の指導が行われたり、精神を安定させる薬の処方がされたりすることもあります。
また、耳管の開閉部分に薬を噴射して炎症を起こして閉めさせる、という方法も用いられます。
ただし、効果の持続は難しく、根本的に治るものではありません。
そのほか、耳管の周辺へ脂肪を注入する手術が行われることもあります。
「耳管開放症」の症状緩和のための3つの対策
妊娠をきっかけにして起きた場合、出産後自然に治ってしまうことがほとんどです。
しかし、この不快感に出産まで耐えるのは辛いものです。
次の3つのことを実践してみましょう。
耳の不快感を解消させる3つの方法
- 血行を良くする
- こまめな水分補給
- 睡眠時間の確保
耳の周囲の血行促進
「耳管開放症」の原因として考えられているのは、血行不良です。
そのため、まずは血行を良くすることを考えましょう。
耳の周囲の血行促進の方法
- 耳の周りのマッサージ
- 耳の周りを温める
- 風呂にゆっくりとつかる
体全体が血行不良に陥っていることも考えられますが、まずは耳の周りの血流を良くする方法を取り入れてみましょう。
その際、ツボを意識すると良いでしょう。
耳周辺のツボ
- 完骨・・・耳の後ろ側にある骨のさらに後ろの部分
- 耳門・・・耳の前のくぼみ
- 聴宮・・・耳の前の口を開けるとへこむ部分
- 翳風・・・耳たぶの後方にあるへこみ
- 角孫・・・耳の後ろの骨の最も高い部分
これらは、耳の血流を良くする作用があります。
指の腹で押すなどのマッサージをしたり、カイロを当てるなどして温めると良いでしょう。
体の冷えを感じていて体全体を温めたいときには、風呂にゆっくりとつかるのが一番良い方法です。
40℃程度の湯に、少し汗ばむくらいつかっていると、体の中から温めることができます。
水分補給を忘れずに
こまめな水分摂取は、健康にも良いものです。1日2リットル程度飲むと良いといわれます。
のどの渇きを感じなくとも、水分が不足している場合があります。
食後に飲む、風呂上りに飲む、など、飲む時を決めると取り組みやすいでしょう。
そして、尿としてしっかり出し、体の水分を入れ替えるような意識を持つと良いでしょう。
妊娠中はむくみが気になりますが、むくみ解消のためにも水分を摂ることによって尿を出す行為は大切です。
生活リズムを整え睡眠時間を確保
日本人は、世界的に見て睡眠時間が短いといわれます。
しっかり睡眠をとることは、疲れの解消になり、ストレス緩和にも結び付きます。
生活の流れを見直して、睡眠時間をしっかり確保できるようにしましょう。
起きているときは交感神経、眠っているときは副交感神経が優位に働いています。
睡眠時間の確保は、副交感神経優位の時間が増えることになり、自律神経の作用のバランスを整えることにつながります。
望ましい睡眠時間は、7~8時間といわれます。
まずは、それだけの時間を確保することに努めましょう。
ただし、個人差があるのも事実で、ふさわしい睡眠時間は人それぞれです。
リラックスして副交感神経の働きを高められる時間を持つ、ということも含めて時間設定をすると良いでしょう。
リラックスする時間を持つことは、熟睡につながり、睡眠の質を高めることにもなります。
鼻すすりは絶対にダメ!
「耳管開放症」の代表的な症状である、耳がつまったような感覚は、鼻をすすってつばを飲み込む行為で解消されます。
しかし、こればかりで対応していると、重大な事態を引き起こすことがあります。
「耳管開放症」は、読んで字のごとく耳管が開いたままになっている状態です。
そのような状況で鼻をすすると、中耳の中にある空気が吸い出されて耳管が閉まります。
そのため、治ったと思ってしまいます。しかし、この事を繰り返していると鼓膜がそのたびにへこみ、そのへこみに耳垢がたまるようになっていきます。
そのたまった耳垢が原因で炎症を起こし、その炎症が場合によっては脳まで達することがあるのです。
脳にまで進んでしまうと命にも関わります。
そこまでに至らなくとも、内耳の炎症で耳が全く聞こえなくなってしまうことになります。
鼻すすりは、一時的な回復にしかなりません。
上に挙げた3つの方法を実践し、体調を整えることでの回復を目指しましょう。